防大1年生の10月-部隊での訓練で実射を初体験

防衛大学校に入校して半年が経過した10月。富士山のふもとにある陸上自衛隊の演習場に泊まり込んで行う、秋季訓練があります。夏の訓練は基本的に見学ばかりだったので、校外での初めての訓練らしい訓練といえます。この秋季訓練で、人生初の射撃を経験しました。

きわめて基本的な内容の訓練です

約1週間ほどの期間、富士山のふもとにある陸上自衛隊の演習場に宿泊します。宿泊施設はもちろん演習場内にあって、映画などでよく見かけるカマボコ形の建物に2段ベッドがずらっと並んでいる施設で寝起きします。

訓練内容は、陸上自衛官としての基本の基本といってよい初歩的な内容となっています。現役自衛官の隊員の方に各班の指導教官としてついてもらい、陸上自衛官の基本的な所作や注意点について学びます。

地図とコンパスを使って道から外れたポイントへ到達するオリエンテーリングでは、班ごとの競争で最下位となれば走らされたりもします。防大入校以来、貸与されている自動小銃の撃ち方の種類や注意点、実射の際に気を付ける点などを実際に身振り手振りで実演を交えて教えてもらいます。

ちなみに、顔にドーランを塗りたくって戦闘訓練したり、真っ暗闇の中で戦闘訓練したりはしません。それはもっと上級生になってからで、この時期は基本的なことを体験する訓練となっています。

しんどそうに思えますが、実は結構楽しいです

訓練と聞くと、何だかしんどそうに思えます。ですが、入校後の4月~6月の時期を体験してきた身としては、しんどいどころか逆に楽しい部分の多い訓練です。1年生の秋季訓練は、林間学校が少しだけハードになった感覚です。

例えば、オリエンテーリング。背のうという大きなリュックに荷物を入れて、自動小銃を肩にかけ、道なき道を歩いて行く。と聞くと、明らかにしんどいイメージですが、体力はアホ程あるので大丈夫です。道がないのはポイント周辺だけで、そこまでは道と呼んでかまわない程度の道がありますので、迷うこともほぼありません。

夜警といって、誰も攻めてはこないのですが、交代で夜の警護も行います。前の時間帯の当番が次の当番を起こして交代するのですが、深夜に当たるとさすがに眠いです。それでも、ペアを組む相棒と外に出て、満天の星空の下に富士山のシルエットが浮かび上がる光景を目にできれば、深夜の夜警当番も当たりと思えます。

何といっても嬉しかったのは、ご飯が美味しいことです。自衛官は体が基本、部隊のご飯が美味しいとは先輩から聞かされていましたが、本当に美味しかったです。特に白ご飯。防大の白ご飯がとてもともても…という状況だったので、天国かと思ってしまいました。

人生初の射撃訓練を終えて、正直怖かった

この秋季訓練でのメインとなるのが、自動小銃の射撃訓練です。入校以来、分解しては掃除して組み立てなおし、行進や走る時のお荷物の1つでしかなかった自動小銃です。やっと本来の使い方を経験しました。

射撃姿勢は伏せ打ちで、うつ伏せになって両足を開き、銃前部の脚を立てる姿勢を何度も反復練習します。決して銃口を人に向けてはダメなこと、引き金を引く際に力を入れすぎないことなど、実射訓練の前に注意点を念入りに教わります。

実射をするまでの姿勢や所作をひと通り練習した後、やっと実射訓練です。二人ひと組で、射手が1発撃つごとに、助手は着弾位置を双眼鏡で確認し照準の修正を指示します。標的は200メートル先です。最初は「本当に当たるのか」と半信半疑ですが、5発が終わるときにはどこかしら標的に当たるようになっていました。

全員が初めての射撃です。技量の差は、ほぼセンスの差となって出てきます。2発目から上手に修正して中心近くに命中させる人がいれば、5発目でやっと標的の端に命中させることができた人もいます。私には射撃の才能は無かったようです。

初めて実弾射撃を終えた後、正直いって怖かったです。200メートルも先にある標的に、自分が引き金を引いて撃った銃弾が命中する。これは、標的が人であっても同じです。逆に言えば、自分が標的になる可能性も当たり前にある、ということです。そのことに、射撃を経験して初めて思い至り、怖かったのです。

実際に、射撃を行う状況にならないようにするのは当然ですが、万が一のために訓練は怠らない。自衛官として当たり前の覚悟ですが、本当に自分が撃てるのか、自分の職務として責任を果たすことができるのか。

この秋季訓練が終わった頃には、自分の中で職業軍人として生きることが無理なのではないかと強く意識するようになりました。

では、また。

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