防大1年生の5月、生活に少し慣れてきたもののまだまだ緊張感いっぱいです。この時期から夏の訓練期間にある遠泳の練習が始まります。防大では7月は訓練期間といって、各学年ごとに校内及び自衛隊の諸施設にて見学や実習訓練をする1ヶ月になります。1年生は7月末に東京湾での遠泳があります。
泳げるかどうかのテストがあります
遠泳で使う泳法は「平泳ぎ」です。最初に遠泳に耐えられる泳ぎ方かどうかをテストされます。25mを何本か泳いで判断されるのですが、タイム的に早いか遅いかというよりも遠泳で長時間泳げるきれいな平泳ぎが出来ているかどうかの方が重要なようです。
私自身は中高とプール授業は無かったものの、小学生時代は泳ぎに多少自信があったのでテストはクリアできると思っていました。しかし、腕の力に頼りすぎて足が使えておらず遠泳向きの平泳ぎの泳ぎ方ではないと判断されて「赤帽クラス」になりました。
赤帽クラスの他のメンバーは、北海道出身で水泳経験ゼロの人とかもいて、泳げると思っていた私は少し悔しい気持ちになりました。
泳げなくても大丈夫、じっくり練習させられます
赤帽クラスになると、授業終了後のクラブ活動の時間に週1、2回練習がありました。5月の時期は屋内プールでの練習ですが、水着は着ているものの最初はプールサイドでの練習から始まりました。
まずはプールサイドでうつぶせになり、その場で平泳ぎの形の練習をします。これ、やったことがある人なら分かると思いますが、カエルのおもちゃのような動きになってしまい、とてもブサイクです。ここで重点的に教わるのは足の動きです。足裏で水をつかまえてキックできるようにならないと、腕に頼った平泳ぎになってしまいます。遠泳は最後に8kmの距離を泳ぎますので、腕の力だけではとうてい無理で、基本的には足で推進力を得るような泳ぎ方が必要になります。
次にプールに入るのですが、まだ泳ぎません。プールサイドにつかまり足で水をかく練習を行います。2人1組で行うのですが、1人が足先に立ってきちんと水がかけているかどうかチェックします。足できちんと水をつかまえてキックできると、足先に立つ方はお腹に水が当たるのが分かります。
こうしてある程度、足の動きが分かってから実際に泳ぎ始めます。ビート板を手に持って足だけor足に挟んで手だけで25mを何本も泳ぎます。手だけの場合は最初から何とか泳ぐことは出来るのですが、足だけの場合は最初思うように前に進みません。
足の裏で水をつかまえることは分かってはいるのですが、実際に前に進める程に水をつかまえるのがなかなか難しいのです。コツをつかむまで繰り返し練習をするしかありません。この頃は「マジか、こんな状態でで遠泳出来るようにまで上達なんてすんのか?」と少し焦りながら練習していました。
ビート板で泳げるようになったら今度はビート板無しで同じ事を行います。ビート板があると水の抵抗が増えて泳ぎにくい反面、浮力は得られるので息継ぎの心配はありませんでした。しかし、ビート板無しで足だけで泳ぐと息継ぎが大変です。きちんと水を蹴らないと浮力も得られず、顔を上げて息継ぎすらできません。
6月になって「泳げる白帽組」と合流するまでこの練習は続きます。合流前には足だけで25mは余裕で泳げるようになっており、25mを15蹴りつまり1回のキックで1m~2m進める程度には上達しています。これは1mも泳げず、顔を水につけることからスタートした学生も同じでした。驚くことに赤帽組のくせに、それまで練習をしていなかった白帽組よりも上手になってしまう奴までいました。
全く泳げなかった学生も8kmの遠泳を泳ぎ切ることができるようになります
6月半ば以降は、屋外プールで白帽組も交えて練習します。一番きつかったのは屋外プールでの1km泳いだ時でした。海ならば体は自然に浮くのですが、プールの場合は浮く意識を持たないと体が沈みがちになってしまい、泳ぐと同時に浮くことにも神経を使わないといけないので疲労したのだと思います。
7月の訓練期間の最後には、防大のある三浦半島の先っぽの東京湾での遠泳となります。徐々に泳ぐ距離を伸ばして、1km→2km→2km→4km→8kmと日にちをかけて最後の8km遠泳になります。最後の8kmはしんどそうですが、実際は体力的には大丈夫でした。1mも泳げなかった学生もしっかり最後まで泳いでいましたし、練習さえすれば誰でも泳げるようになるってことですね。
閉口したのはクラゲでした。透明な水クラゲが大量にいて、私たちは隊列を組んで泳いでいるので、クラゲの群れに先頭が突っ込むと後ろは大変です。普通に海面に浮いていればまだ何とかなるのですが、前の人が起こした波にもまれて水中でクルクルと回転しながらこちらに向かってくるのです。初日は逃げようともがいていましたが、途中からはあきらめました。赤い奴でなければ刺されて多少痛い程度なんで、クラゲをかき分けて泳いでいました。
防大での遠泳以来、海であれほどの距離を泳いだ経験はありません。泳ぎ方も忘れてしまっているかもしれない。でもアホみたいに日焼けして、クラゲだらけの海を泳いだ記憶はまだ残っています。
では、また。