今まで、いろいろな構造設計者と仕事を御一緒した経験から、構造設計者が持っておいた方が良いと私が考える資質があります。それは
- 建築が好きである
- 好奇心がある
- コミュニケーション能力がある
- 想像力と創造力がある
- 独自性がある
の5つです。以下にそれぞれについて解説していきます。
建築が好きである
建築や構造設計が好きであることは大前提ですが、仕事としてやっていくうちに「好き」という初めの気持ちを忘れてしまうことがあります。激務に追われて疲弊してしまい、気が付いたら「何でこんなしんどいことやってるんだろう」と思うこともあるでしょう。
そもそもの始まりは「建築が好き、構造が好き」だったという想いのはずです。その想いを持ち続けられる人が、構造設計者として長く仕事ができているように感じます。
好奇心がある
構造設計が好きで関心があることは当然です、好きなのですから。それでも、自分の専門分野以外も好奇心を持って接することができるかどうかは大切です。
建築家がいつでも分かりやすいものを提示してくるとは限りません。時に映画や演劇、絵画や音楽を持ち出してイメージを伝えてこようとすることもあるでしょう。そんな時に「自分の専門分野だけ知っていればいい」と考えていると建築家とは分かりあえず、良い建築になりようがありません。
好奇心がある場合は、その場では相手の言っている事がイメージとして捉えられなくても、その後に自分で調べたり体験したりしてイメージをつかまえようとします。相手のことに興味を示し、理解しようとしないと目指す建築の姿がブレてしまいます。好奇心を持ってアンテナを張りましょう。
コミュニケーション能力がある
構造設計者は構造計算と図面だけやってるので、人とコミュニケーションなんて必要ないと思っていると痛い目にあいます。実は、人相手のコミュニケーションが仕事の半分以上を占めていたりするものなのです。
分けのわからないことを実現しようとする建築家や、配管通して欲しくない場所に平気で配管通す設備設計者とのやり取り。工事が始まれば現場所長や監督への設計意図の伝達、知らないことは面倒なので新しいことをやりたがらない職人の親方への説明。
相手の主張も理解して受け入れつつ、構造設計者として譲れない部分は妥協せず主張し、お互いの落とし所を見つけていく。まさにコミュニケーション能力の出番です。人づきあいが苦手でも構わないですが、人づきあいが嫌な場合は構造設計者に向いていません。そういう意味では、私は向いていないかも…
想像力と創造力がある
設計行為の始まりは建築家のイメージであることが大半です。漠としたイメージを想像できる想像力は当然必要ですし、そのイメージを建築という現実の形として構築する創造力もまた必要です。
その建築にとって、何が一番重要なことなのか、はずしてはダメな部分はどこか、想像力を駆使して見極めなければなりません。建築家が意図することの本質は何か、共有しておかなくてはならないイメージを想像できているか。
その上で、構造設計者としてやりたいことを表現する創造性が必要になります。意外とクリエイティブな部分もあるのです、構造設計者には。
独自性がある
全く新しい技術を開発するのは、ごく一部の天才の仕事です。私たち凡人は、既存の技術の組み合わせや延長で、独自性を出して新しいものを産み出すしかありません。1つの建築に関わる全ての構造関連分野で新しいことをやろうとして、そりゃ無理です。毎回1か所でも「自分はこれをやった」というものを持てば、積もり積もって独自性が生まれてきます。
構造設計者としての独自性もあります。他の人が得意であなたが不得意な分野で勝負しても、まず勝てません。勝てる分野は必ずあります。技術に関する具体的なものでなくても、例えば建築家のイメージを構造設計者の理解できる表現として翻訳できる、などでもよいでしょう。
構造設計者の世界での立ち位置にも独自性があれば、長く続けていけます。
以上のことは構造設計者の世界だけのことではないのかも知れません。それでもやはり、上記の5つの資質を持っているか、必要だと思っているかいないかで、必要とされる構造設計者となるかどうかが変わってくると感じています。
私自身が全てを装備していて、必要とされる構造設計者であるとは言ってません。私もまだまだ修行が足りません、一緒に精進しましょう。
では、また。